初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
「指輪、楽しみだね」
「そうだな」
レストランで夕食をとってから乗り込んだタクシー内で、短い会話を交わす。
今日のデートもこれで終わり。結婚式の準備が順調に進んでいくのはうれしいけれど、あと少しでお別れだと思うと寂しい。
タクシーに乗る前まで繋いでいた手も、今は離れたまま。温もりが恋しくなり、血管が浮き出る男らしい手の甲にそっと腕を伸ばす。
「招待客のリストアップは終わった?」
手が触れ合う前に声をかけられ、慌てて腕をもとに戻した。
「ううん。まだ」
結婚式の段取りをきちんと把握している彼と違い、能天気な自分を恥ずかしく思いながら首を左右に振る。
「九月には招待状を発送するから、早めに準備しておくように」
「うん。わかった」
彼の口から出るのは結婚式に関する話ばかり。事務的な会話に虚しさが募る。
この先もふたりきりで甘いひとときを過ごすことなく、準備に追われていく日が続くと思ったら不覚にも涙が込み上げてきてしまった。
一緒に指輪を選んで今が幸せの絶頂のはずなのに、切なさを感じるなんてどうかしている。
勘が鋭い彼に動揺していることを悟られないように、後部座席の窓の外に流れる景色に視線を移して小さなため息をついた。