初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~

私の肩に触れる手は大きくて力強い。

昔は私より背が低くて泣き虫だったのにと、付き合いの長さを実感しながら階段を下り切ると、近くのベンチに座った。

お盆休みに入った夜の遅い時間帯のホームは、人の姿もまばらだ。

「大丈夫か?」

「うん。平気」

酔いを醒ますように息をフウと吐き出すと、スマホの着信音が聞こえてきた。

バッグから取り出したスマホの画面には、彼の名前が表示されている。

「あっ、直君だ」

真紀と陽太とビアガーデンで会うことは、すでに伝えてある。きっと、帰りを心配して連絡してきてくれたのだろうと思い、ビデオ通話の応答ボタンをスワイプした。

「もしもし」

ほろ酔い気分でスマホを覗き込んだそのとき、思いがけない出来事が起きる。

「お前さ、小夜子を不安にさせてんじゃねえよ!」

私から取り上げたスマホに向けて放たれた陽太の怒鳴り声が、ひとけのないホームに響き渡る。

目の前でなにが起きたのかすぐには理解できずに唖然としていると、膝の上にスマホがポンとのった。

すでに通話が切れているスマホを目にした瞬間酔いが醒め、自分勝手な陽太の言動に対して怒りが込み上げてくる。

「ちょっと、なにするのよっ!」

私と話すつもりで連絡を入れたのに、知らない男性がスマホに出ていきなり(わめ)かれたら、いくら冷静な彼でも面食らうに決まっている。
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