初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
今頃、困惑しているであろう彼に事情を説明しようと、慌ててスマホをタップする。けれど、焦れば焦るほど指先が震えてしまう。
「もうっ」
泣きたい気分で不満を漏らすと、陽太が私の前にしゃがみ込んだ。
「なんでアイツなんだよ」
「えっ?」
「二十年も会ってなかったヤツと、どうして簡単に結婚を決めたんだよ」
私たちはウィーンで再会してからまだ日が浅いけれど、陽太の言うように安易に結婚を決めたわけじゃない。私は心から彼を愛しているし、彼も同じ思いでいてくれている。
なにも知らないくせに余計な口出しをしないでほしいと訴えようとした矢先、私を見上げる陽太の目が潤んでいるのに気づいた。
小さなときと変わらない悲しげな表情を見てしまったら、もうなにも言えない。
「アイツより俺の方が小夜子をよく知っている。なにがあっても不安になんかさせない。だから小夜子……。俺を選べよ」
黙ったままでいる私の手に、陽太の手が重なる。
私に向けられる彼のまなざしは真剣で、口にした言葉も嘘じゃないとわかる。
今まで陽太の思いに少しも気づかなかった鈍感な自分が嫌になる。けれど、私は彼の気持ちには応えられない。
「ごめんなさい。私は……」