初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
「いいのかよ」
「うん。だって今は陽太と話す方が大事だもん」
陽太がうつむいて、バツが悪そうに髪をクシャリと掻き上げる。
きっと、感情的になってしまったと後悔しているのだろう。
わかりやすい反応を示す陽太を憎めないと思いながら、ベンチから立ち上がった。
間が空いてしまったけれど、『俺を選べよ』という陽太の言葉にきちんと返事をしなければならない。
「ごめんなさい。私は直君が好きで……」
「わかってる。アイツと結婚するのが、小夜子にとって一番幸せなんだろ?」
私の話を最後まで聞かずに投げかけられた質問に対する返事は決まっている。
「うん」
「だったらもうなにも言わない。小夜子、幸せになれよ」
思いやりにあふれた言葉を聞いた瞬間、胸が熱くなる。
幼なじみに祝福される私は幸せ者だ。
「ありがとう」
「婚約者に悪かって謝っておいてくれ」
「うん。わかった」
照れたように笑う陽太と会話を交わしていると、電車が到着するというアナウンスがホームに流れる。
陽太と気まずくならなくてよかったと思う一方で、直君にこの経緯をどう説明すればいいのだろうという新たな悩みに頭を抱えた。