初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
クアラルンプール空港でタクシーに乗り替えて一時間ほどで、宿泊先のホテルに到着する。
ラグジュアリーな空間が広がるクラブラウンジでアイスティーを飲みながらチェックインを済ませると、案内されたスイートルームに足を踏み入れた。
白い壁にダークブラウンのインテリアが設置された、広々としたリビングの大きな窓からは、超高層ビルのペトロナスツインタワーが一望できる。
「直君、すごいね」
窓際に駆け寄り、その近代的な建物を眺めて振り返ると、彼が重厚感のある革張りのソファに腰を下ろした。
滅多に見られない光景につい興奮して声をあげてしまったけれど、空港からホテルに向かうタクシーでも、クラブラウンジでも彼は終始無言だったのを思い出す。
私たちってケンカ中なのかな。
話し合いもままならない状態を嘆かわしく思っていると、彼が長い脚をゆっくり組んだ。
「それで、どうして俺はキミの元カレに責められなければならなかったのかな」
声のボリュームは抑えていても、私を『キミ』と呼ぶ彼の言葉は刺々しくて怒気をはらんでいるように聞こえる。
「陽太は元カレじゃないよ。ただの幼なじみだよ」
「へえ、そうか。昨日は婚約者の俺には言えない不安を、その幼なじみに相談していたってわけか」
陽太に怒鳴られたことを腹立たしく思う気持ちはわかるけれど、ふたりきりになった途端、嫌味を言うなんて意地悪だ。