初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
「相談っていうか……。私たち結婚するのに、まだなにもないなんておかしくないかって話になっただけだもん」
ついムキになって不満を口にしたものの、三人で赤裸々な話をしていたと知られてしまうなんて恥ずかしい。
羞恥を隠すために彼に背中を向けて、窓の外に広がる景色を見つめた。
ご両親への挨拶が目的であっても、ふたりきりの旅行は初めてで夏休みがくるのを心待ちにしていた。しかし、こんなことでは言い争っているうちに、移動を含めた三日間の短い旅が終わってしまう。
物悲しい気持ちでクアラルンプールの風景を見つめていると、彼の腕が背後から伸びてきて腹部に巻きつく。
足音も立てずに私のもとに移動して来た彼に驚き、心臓がドキリと跳ねた。
「できるならガラスの瓶に閉じ込めて、一日中眺めていたい。それくらい俺は小夜子のことを大事に思っている」
耳もとでささやかれた甘い言葉をくすぐったく思ったのも束の間、少しの違和感に気づく。
「今……名前……」
「幼なじみが呼び捨てにしているのに、婚約者の俺がいつまでも〝ちゃん〟づけで呼んでいてはおかしいだろ? 今回は小夜子を大事に思いすぎたのが裏目に出たようだ。不安にさせて悪かった」
背中に体を密着させて私を抱きしめる腕に力がこもる。
愛されているという喜びがヒシヒシと込み上げてくると同時に、彼を愛しく思う気持ちが胸いっぱいに広がった。