初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
「挨拶なんか行かないで、このままずっと小夜子とじゃれ合っていたいよ」
珍しく不満をこぼす様子をかわいく思ったものの、彼の願いを受け入れるわけにはいかない。
「ダメだよ。ご両親にお許しをいただかないと、私たち結婚できないんだよ?」
「まあ、そうだな」
納得したようにうなずいた彼が、私の額に軽いくちづけを落とし、背中に回していた腕にキュッと力を込める。
マレーシアに到着した当初は素気ない態度を取っていた彼と、私を強く抱きしめる今の彼はまるで別人みたいだ。
彼の言う通り、このままじゃれ合っていられたら幸せだけど、マレーシアを訪れた本来の目的を忘れてはいけない。
「直君。私、まだ準備があるんだけど」
「そうだったな。邪魔して悪かった。リビングで待ってる」
「うん」
私の背中に回していた手を解き放った彼から離れ、髪を編み込んでウィーンでプレゼントされたバレッタで毛先を留める。そして、派手にならないように注意を払い、マスカラをつけて唇に桜色のグロスをのせた。
最後に鏡の前に立って、おかしなところはないか入念にチェックすれば準備完了。彼が待つリビングへ急ぎ足で向かう。
「お待たせしました」
私に気づいた彼が目を通していた新聞を置き、ソファから立ち上がる。