初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
「うん。かわいいな」
「ありがとう」
彼が褒め上手だとわかっていても、かわいいと言われるのやはりうれしい。
「行こうか」
「うん」
差し出された大きな手のひらに、彼から贈られたエンゲージリングが光る左手を重ねて部屋を後にした。
ご両親は私たちが宿泊しているホテルから二キロほど離れた場所にある、コンドミニアムに住んでいると聞いている。
気候のいい時期の日本なら歩ける距離でも、一年中気温が高いマレーシアではタクシーや電車などを利用するのが一般的らしい。
ホテルの前からタクシーに乗り込み、彼が運転手に行き先を伝える。
「今の何語?」
「マレー語。シンガポールの公用語のひとつだから少しは話せる」
聞いたことのない言葉で運転手とやり取りする様子を見て尋ねると、サラリとした答えが返ってきた。
四年前まで、マレーシアの隣国であるシンガポールの大使館に勤めていたと聞いてはいたけれど、マレー語まで話せるとは思ってもみなかった。
いったい、何カ国語を話せるのだろうと感心しながらタクシーに揺られる。
途中、渋滞に巻き込まれたものの、十五分ほどで目的地であるコンドミニアムに到着した。
高い天井と大きな窓から差し込む日差しがまぶしいエントランスロビーのフロントで、入館手続きを済ませてエレベーターに乗り込む。