初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
ピアニストになるという夢と希望を胸に、彼がこのピアノでレッスンに励んでいたと思うと複雑な気持ちになってしまう。
ウィーンで交通事故に遭わなければ、今頃は結城のおじさまのように世界で活躍するピアニストになっていかもしれない。
やるせない思いを胸に抱えていると、ソファに座るように促された。
今、大事なのは結婚の挨拶を無事に済ますことで、変えられない過去を悔やんでいる場合じゃない。
気持ちを切り替えてソファに腰を下ろす。
「弟から小夜子さんの話はうかがっていますよ。聞いていた通り、かわいらしいお嬢さんだ」
お父様の弟である結城のおじさまが、私のことをどのように話したのか気になったものの、面と向かってお世辞を言われるのは照れくさい。
「ありがとうございます」
直君の褒め上手なところは、父親譲りなのかもしれないと思いながら頭を下げた。
「直斗も元気そうで安心したよ」
「うん。父さんも母さんも変わりない?」
「ああ、おかげさまで」
切れ長の目もとがよく似ているふたりが会話を交わす様子を横から見つめる。
お父様は日に焼けた肌にブルーのワイシャツがよく似合っているし、お母様はオレンジのサマーワンピースを上品に着こなしている。
優しげな笑みをたたえるご両親を前に緊張していると、隣にいる彼が背筋を伸ばした。