初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
「今までお世話になりましたという挨拶なら聞かないからな」
「えっ?」
父親の口から出た予想外の言葉に耳を疑う。
「一生会えないわけじゃないんだ。堅苦しい挨拶は必要ない」
「でもっ!」
私の呼び止める声を無視したまま父親がソファから立ち上がり、そそくさとリビングから出て行ってしまう。
明日、結婚式をあげる娘の挨拶を拒否するなんて信じられない。
自分勝手な父親に対して怒りが込み上げてきたとき、母親が小さなため息をついた。
「小夜子がお嫁にいってしまうのが寂しくて仕方ないのよ」
ウィーンで私たちを引き合わせて結婚させようとしたくせに、今になって寂しいと言われても困る。
挨拶はいらないと言われても、感謝の思いは伝えたい。
父親には折を見て挨拶しようと心に決め、母親に向き直る。
「二十七年間、育ててくれてありがとう」
「ママの方こそ、今までたくさんの思い出をありがとう。直斗さんと幸せになるのよ」
「はい」
ふたりでショッピングに出かけたり、一緒にキッチンに立って料理を作ったりした楽しい思い出を胸に、母親と熱くハグを交わした。
* * *
今朝は挨拶をする余裕もないまま、バタバタと家を出た。今、この機会を逃したら、次はいつ父親とふたりきりになれるかわからない。
「パパ。今まで育ててくれて、ありがとうございました」
気恥ずかしい思いを堪えて、感謝の気持ちを口にする。