初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
音楽教室の同僚である麻衣先生が奏でるピアノのメロディに合わせて、彼と腕を組んで会場内を進む。
多くのゲストが見守るなか、メインテーブルに着くと司会者の進行で披露宴が始まる。
開宴直後は緊張した空気が漂っていた会場内も、飲み物と食事の提供が始まると徐々に和やかな雰囲気へと変化した。
イチゴをふんだんに盛りつけたスクエア型の一段ケーキにふたりでナイフを入れて、お互いに食べさせ合うファーストバイトは盛り上がりを見せる。そして、彼の友人が奏でる、ピアノとヴァイオリンとフルートの三重奏に耳を澄ました。
パッヘルベル作曲の〝カノン〟は重なり合うメロディが特徴的で、フルートのやわらかい音色が耳に心地いい。
フルートを演奏している彼女の名前は阿部麻里江。彼と同じウィーンの音楽大学に通い、現在はプロの交響楽団のメンバーとして活躍していると司会者の紹介にあった。
「素敵だね」
「ああ、そうだな」
彼と短い会話を交わし、引き続き曲に聞き入る。
大きくカールしたブラウン色の長い毛先を揺らしてフルートを吹く、優雅で美しい姿に見惚れながら三重奏の綺麗なハーモニーにうっとりしていると、あっという間に演奏が終わってしまった。
メインテーブル席から彼とともに拍手を送っていると、彼女と目が合う。
素晴らしい演奏に感謝してお辞儀をすると、彼女も笑みを浮かべて会釈を返してくれた。
美人なのに気取っていなくていい人だ。
今度、機会があれば彼女が所属している交響楽団の演奏を聞きに行きたいと考え、お色直しのために披露宴会場を後にした。