初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~

このままでは、忙しい時間を割いて練習に付き合ってくれた彼に顔向けできない。明日の日曜日は、一日中ピアノに向かって練習に励むしかない。

強い意志を胸にコンサートホールから駅に続く道を歩いていると、カフェの前で声をかけられた。

「小夜子さん?」

「えっ?」

すれ違いざまに名前を呼ばれ、驚きながら足を止めて振り返る。するとそこには、披露宴でフルートを演奏してくれた麻里江さんの姿があった。

「ああ、やっぱり小夜子さんだった」

不安げな面持ちだった彼女がホッと息をつく。

披露宴での私は、髪をアップにして綺麗なドレスをまとってメイクも普段より濃かった。

思わず声をかけたものの、すれ違ったのが私だという確信はなかったのだろう。

彼女が大きくカールしたブラウン色の長い毛先をふわりと揺らしてニコリと笑う。

「こんばんは。披露宴では素敵な演奏をありがとうございました」

彼女が奏でるフルートの美しい音色は、今も鮮明に耳に残っている。

「いいえ。晴れ舞台で演奏できて私もうれしかったわ。それにしてもこんなところで偶然ね。私はこれから練習なのよ。小夜子さんは?」

白のフルートケースを手にした彼女が首をかしげる。
< 157 / 184 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop