初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~

「私は来週のピアノの発表会の予行練習が終わったところです」

「そういえば小夜子さんはピアノ講師だったわね」

「はい」

私がピアノ講師をしていると披露宴で紹介されたのを思い出したようだ。彼女が納得したようにコクリとうなずく。

「直斗は元気?」

「直君……じゃなくて、主人は海外赴任が決まって先週日本を発ちました」

昔からの呼び方を変えるのは、意外と難しい。

気恥ずかしさを感じつつ彼のことを『主人』と言い直すと、麻里江さんが大きな声をあげた。

「えっ? そうなの? 赴任先はどこ?」

「オーストリアのウィーンです」

「ウィーンって……どうして……」

彼女の黒めがちの瞳が左右に大きく揺れる。

「あの……」

ウィーンと聞いて動揺する意味がわからずに声をかけると、彼女がハッと我に返った。

「小夜子さんは、直斗が過去にピアニストを目指していたのは知っているのよね?」

「はい。でも、二十歳のときにウィーンで交通事故に遭ってピアノが弾けなくなったと聞きました」

私の話を聞いた麻里江さんが苦悶の表情を浮かべる。
< 158 / 184 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop