初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
「直斗が事故に遭ったのは、美琴のせいなのよ」
「美琴さん?」
「当時、付き合っていた彼女の名前よ。美男美女のふたりはとてもお似合いだったわ」
去年の六月、彼のマンションに初めて訪れたときに、楽譜の間から床にこぼれ落ちた昔の写真が脳裏によみがえる。
真っ直ぐな黒髪が似合う綺麗な彼女の名前が美琴さんだとわかり、胸がズキズキと痛み出す。でも、元カノの写真を見て嫉妬に狂った私の前で、彼は『もう過去のことだ』とハッキリ言ってくれた。その言葉に嘘偽りはないと今も信じている。
「私は美琴を許せない。だって、酔っ払って道路に倒れ込んだ美琴を庇って直斗は事故に遭ったのよ。あの事故がなかったら、直斗は一流のピアニストになっていたはずなのに」
麻里江さんが悔しそうに下唇を噛みしめる。
美琴さんを助けたのが事故の原因だったと知り、衝撃を受ける。
彼は命がけで美琴さんを助けた。それほど、彼女のことを愛していたかと思うと、返す言葉が見つからない。
「大学を中退した直斗とずっと音信不通だったのよ。そりゃそうよね。自分は事故でピアノを弾けなくなったのに、一緒の大学に通っていた仲間はなにも変わらずに音楽を続けているんだもの、距離を置きたくなって当然よね」