初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
「私に内緒でふたりが会っているなんて、絶対にないです」
「さあ、どうかしら」
黙ったままではいられず反論したものの、彼女の挑発的な態度は変わらない。
「どうして、主人を悪く言うんですか?」
「直斗を悪くなんて言ってないわ。私が嫌いなのは美琴よ。だから美琴に似ているあなたも嫌い」
披露宴で軽く挨拶を交わしただけの私に臆することなく、感情をぶつけてくる彼女に圧倒されてしまう。
これ以上、麻里江さんと関わりたくない。
「これで失礼します」
この場から立ち去ろうとしたとき、うつむく彼女の足もとに大粒の滴がポタポタとこぼれ落ちているのに気づいた。
「麻里江さん?」
「私、美琴の親友なのに陰で悪口言うなんて最低よね。嫌な思いさせて悪かったわ。ごめんなさい」
頬に伝う涙を拭い、私に背中を向けて駆け出した彼女のうしろ姿を見つめる。
麻里江さんは、直君がピアニストになるのを誰よりも応援していた。だからこそ、事故の原因である美琴さんを今でも許せずに苦しんでいる。
きっと、今までの苦悩を晴らす術がわからず、美琴さんに似ている私を責めてしまったに違いない。
あの事故さえ、起こらなければ……。
そう思わずにいられないのはみんな同じで、それぞれの心の傷が癒えるのは、いつになるのだろうと途方に暮れた。