初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
直斗Side

泣くのを必死で堪える意地らしい姿を見たら、我慢できなかった。

「小夜子、愛しているよ」

目の前にある艶やかな唇を塞ぐ。

普段なら人目がある空港の出発ロビーで、こんな大胆なことはしない。でも、しばらく会えないと思ったら、どうしてもキスをせずにはいられなかった。

本当はふたりで一緒にオーストリアへ旅立ちたかったけれど、ピアノ講師の仕事を中途半端に終わらせたら彼女も俺も一生悔いが残る。

そう思い、うしろ髪を引かれる思いで日本を発った。

仕事の引継ぎは順調だし、仮住まいのアパートスタイルホテルでの生活もなに不自由ない。けれど、小夜子が隣にいないのにはちっとも慣れない。

結婚してからまだ三カ月半しか経っていないのに、小夜子がいる生活があたり前になっていたのだと改めて気づいた。

* * *

ピアニストの叔父の影響で五歳からピアノを始めた俺は、周りの大人が驚くほど上達が早かったらしい。

七歳のときに父親の赴任先であるマレーシアの子供ピアノコンクールに初めて出場したにもかかわらず優勝を果たし、それからは東南アジアの各地で開催されるコンクールに(ふる)って参加した。
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