初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~

友だちと話し始めた彼女から離れ、テーブルに並ぶ料理を皿に盛りつけて口に運ぶ。

有名楽器メーカーの社長令嬢の誕生日パーティーだけあって、どの料理もおいしい。

夢中で料理を頬張っていると、彼女の演奏が始まった。

きらきら星変奏曲は、俺が子供ピアノコンクールで初めて優勝したときに演奏した思い出深い曲。

その明るいメロディを懐かしく感じて耳を澄ましたとき、それは起きた。

今まで室内に響いていた音が突然止まる。

なにが起きたのかと視線を向けると、鍵盤に指をのせたまま硬直している彼女の姿が見えた。

きっと暗譜が飛んでパニックになったのだろう。遠目でも小さな体が小さく震えているのがわかる。

このままでは、泣き出すのも時間の問題だろう。

七歳の誕生日パーティーが思い出したくない記憶になってしまうのは、あまりにもかわいそうだ。

なんとかしてあげたいという気持ちが込み上げ、気がつけば彼女のもとに駆けつけていた。

大粒の涙を落とす彼女を励まして演奏を再開する。

驚くほど小さな手を動かしてピアノを奏でる彼女の目に、もう涙はない。

かわいい彼女の顔に笑みが戻ってよかったと思いながら、ふたりで演奏を続けた。

* * *
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