初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~

日本から遠く離れたウィーンでひとり、小夜子と初めて出会ったときのことを思い返す。

寂しい思いはしていないか、ピアノの練習は進んでいるのか、小夜子を思って毎日メッセージを送る。

そんな切ない一週間がようやく過ぎた土曜日の午後一時。久しぶりに顔を見て話ができるという喜びを胸に、小夜子に連絡を入れる。しかし、すれ違わないように、日本時間の午後九時に俺から連絡すると前もって決めていたにもかかわらず、コールを鳴らしても応答がない。

なにかあったのかと気を揉んでいると八回目のコール後に、待ちわびていた声がスマホ越しに聞こえた。

『もしもし、直君?』

「ああ、元気か?」

『うん。直君は?』

「俺も元気だ」

ようやく通話が繋がって安堵したのも束の間、ある違和感に気づく。

「小夜子は俺の顔が見えているか?」

『うん』

「そうか。じゃあ、なんで俺のスマホには小夜子の顔が映らないんだ?」

ビデオ通話のはずなのに、声しか聞こえてこない状態を不思議に思う。

もしかしたら、スマホのカメラが故障したのかもしれない。

かわいい顔を見られるのを楽しみに、この一週間仕事に打ち込んできたのにと肩を落としたとき、思いがけない言葉が耳に届いた。

『直君、ごめんね。カメラをオフにしたの』

「ん? なぜだ?」

『それは……』
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