初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~

理由を尋ねても、小夜子は黙ったまま。明らかに様子がおかしい彼女に対して不安ばかりが募っていく。

「なにがあった?」

『な、なにもないよ』

「なにもないって声じゃないだろ。なにがあったのか聞かせてほしい。俺たち、夫婦だろ?」

左薬指に光る小夜子とお揃いの結婚指輪を見つめて、辛抱強く答えを待つ。しかし、スマホ越しに聞こえてきた言葉に耳を疑った。

『私って……美琴さんに似ているの?』

「は?」

『美琴さんに似ているから、私と結婚したの?』

元カノの名前は小夜子に教えていない。それなのに、どうして知っているのか疑問に思いながらも話を進める。

「小夜子? 順序立てて説明してくれないか?」

冷静に尋ねると、少しの間を置いて小夜子が小さな声で語り始めた。

『今日、麻里江さんとバッタリ会って、美琴さんに似ているって言われたの。去年のゴールデンウィークに美琴さんと会ったんでしょ? もしかしたら、今も会っているの?』

麻里江から美琴について聞いたとは予想外で、思わず息を呑む。しかし、美琴と付き合っていたのはすでに遠い過去のことで、やましい気持ちなど一ミリもない。

「ゴールデンウィークに美琴と会ったのは事実だ。けれど、今は会っていない」

『……うん、わかった。変なこと聞いてごめんなさい』

スマホから聞こえている声は震えていて、涙を流しているとわかる。
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