初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
きっと俺が連絡する前からすでに泣いていて、ビデオ通話のカメラをオフにしたのは泣き顔を見られたくなかったから。そう思うと罪悪感で胸が痛む。
「小夜子、美琴とは……」
頬に伝う涙を拭ってあげられない現状をもどかしく思いつつ、ゴールデンウィークに美琴と会った事情を説明しようとした。けれど、簡単に言葉を遮られてしまう。
『直君、あのね。今日、発表会の予行練習があったんだけど、講師演奏が全然ダメだったの。だから発表会が終わるまで練習に集中したいから、悪いけど連絡してこないでね。じゃあ、切るね』
「小夜子!」
呼びかけも虚しく通話が切れる。
慌てて小夜子のナンバーを再度タップしたものの、何度コールを鳴らしても応答はなかった。
「言い訳くらい、させてくれよ」
仮住まいの部屋にひとり言が虚しく響く。
結婚してまだ日が浅いにもかかわらず夫と離れ離れになり、最後の仕事である講師演奏を一週間後に控えてプレッシャーを感じているなかで、麻里江から元カノに関する話を聞かされたら心が不安定になって当然だ。
永遠の愛を誓った俺と小夜子なら、離れていても大丈夫だと思っていた。けれど、それは俺の過信でしかなかったのが堪らなく悔しい。
連絡するのを拒否され、ピアノの練習に付き合うこともできない無力な自分を腹立たしく思いながら、ソファに力なく倒れ込んだ。