初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
ピアニストになるという夢はあきらめたものの、子供たちはかわいいし仕事も楽しくて、現状に不満はない。
「直君はどんな仕事をしているの?」
彼がピアニストになっていたら風の便りに聞くだろうし、その前に結城のおじさまから父親に連絡が入るはず。
今までそのどちらもなかったということは、残念だけれど直君も私と同じように夢を叶えられなかった。そう考えるのが自然だ。
ピアニストを目指していた彼の現在を気にかけながら、返事を待った。
「外交官として働いている」
彼が私の質問に答えて、ワインをひと口味わう。
まさか、ご両親と同じ職業に就いていたとは驚きだ。
「そうなんだ。すごいね」
彼に声をかけたものの、自分の語彙力のなさが情けない。
小さく肩を落とすと、頭の上に大きな手がポンとのった。
「褒めてくれてうれしいよ」
彼が私の頭をなでながら、フッと笑う。
そのまなざしは、ピアノが弾けずに泣いていた私を励ましてくれたときとなにも変わらない。
直君にとって、私は今でも幼い女の子のままなんだ。