初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
涙の帰国
アンコールが終わり、多くの人でごった返しているエントランスロビーを、階段の上から見下ろす。
「すごい人だな。くれぐれもはぐれないように。いいね?」
「はい」
眉をひそめる彼の口調は、過保護な親そのものだ。
相変わらず私を子供扱いする彼に不満を感じたものの、今は文句を言っている場合じゃない。
この年で迷子になるのだけは絶対に避けなければならないと気を引きしめていると、彼が左肘を軽く曲げた。
「俺に掴まって」
「う、うん」
心臓をドキッと跳ね上げ、彼の腕に手を添える。
ジャケットの上から少し触れただけでも、彼の腕は筋肉質で引き締まっているとわかる。
これはただのエスコートなのに、動揺してしまうなんて恥ずかしい。
直君を変に意識してしまうのは、初恋の相手だからだ。
思わずときめいてしまった言い訳をしながら、階段を下りる。
まだ胸の高鳴りは続いている。それなのに、私の隣にいる彼の横顔は平然としていて感情が読み取れない。
ひとりで浮かれてしまった虚しさを感じていると、エントランスロビーに着いた。
さあ、これからが本番だ。
彼とはぐれないように、添えていた手に力をキュッと込めてフロアをゆっくり進む。けれど、それも束の間、彼が人の流れからはずれて出口とは逆の方向に歩き出した。