初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
「どこに行くの?」
予期せぬ彼の動きに驚き、声をあげる。
「これから叔父さんの控え室に行く」
「えっ? そうなの?」
「ああ。ほら、関係者パスも持っている」
彼が足を止め、ジャケットの内ポケットからセキュリティカードを取り出す。
どうやら、それを見せれば結城のおじさまと面会できるらしい。
「私も行っていいの?」
「いいに決まっているだろう」
明日はおじさまと食事をして、ウィーンを案内してもらう予定になっている。今日の公演に招待してくれたお礼と演奏の感想は、そのときに伝えようと思っていた。
まさかのサプライズはうれしいけれど、コンサートが終わった後に会えるのをギリギリまで隠しておくなんて人が悪い。
「もっと早く教えてくれればいいのに」
小さな声で愚痴をこぼす私を見て、彼がクスクスと笑い出す。
「悪かったよ」
瞳を細めて陽気に笑う様子は、二十年前と変わっていなくて心が和む。
「行こうか」
「うん」
フロアの隅にある自動ドアの前に立つ警備員にパスを見せて、カードをセンサーにかざすとロックが解除される。通路を進み、結城のおじさまのネームプレートがかかったドアを彼がノックした。