初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
「Bitte」
ドイツ語なのだろうか。言葉の意味はわからないけれど、中から聞こえたのは、たしかにおじさまの声だ。
ドアを開けた彼に促され、控え室の中に入った。
「やあ、小夜子ちゃん。久しぶり」
「お久しぶりです!」
ソファから立ち上がったおじさまに駆け寄り、ハグを交わす。
最後に会ってから十年が経っているというのに、若々しい外見は昔から少しも変わっていない。
「今日の演奏、とてもよかったです。とくに第2楽章が……」
コンサートの感想を熱く語り出した私を見て、おじさまが大きな笑い声をあげる。
「まあ、落ち着いて。取りあえず座ろうか」
おじさまの言葉を聞き、再会した喜びとコンサートの余韻が入り交じり、冷静さを失っていたと気づく。
「あっ、ごめんなさい」
ひとりで興奮してしまうなんて、恥ずかしい。
小さく縮こまって、ソファに腰を下ろした。
「直斗も元気そうで安心したよ」
「はい。おかげさまで」
私の隣に座った彼とおじさまが会話を交わす。
ふたりも顔を合わせるのは久しぶりのようだ。
外交官の仕事は激務だろうし、おじさまも世界中を忙しく飛び回っている。今回、ふたりのスケジュールが合ったのは奇跡に近かったのかもしれない。