初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~

「〝もう〟じゃないよ。私は〝まだ〟二十七歳だよ」

(ひさ)()は二十二歳で俺と結婚して、二十四歳で(しょう)()を、二十七歳でお前を生んだんだぞ」

父親が言う『久子』とは母親のことで、『翔也』とは私の三つ年上の兄のことだ。

このままでは婚期を逃してしまうのではないかと心配になる親心もわからなくはないけれど、結婚について指図されるのは我慢できない。

「パパとママの時代と今は違うの! とにかくお見合いはしないから」

これ以上、話をしても埒が明かないし、羽田空港に向かう時間も迫っている。

「小夜子、待ちなさい!」

私を引き留める父親の声を無視してリビングを後にすると、逃げるように家を飛び出した。

なにも出発直前に、お見合い話を持ち出さなくてもいいのに。

日本から飛び立った旅客機内で、両親とのやり取りを思い返す。

つい感情的になって、父親と言い合ってしまったのは大人げなかった。帰国したらもう一度、きちんと話し合おう。

そう心に決めると、瞼をキュッと閉じる。

ウィーンには、現地時間の午前六時に到着する。

寝不足では折角の旅行も楽しめない。取りあえず、お見合いの件は一度忘れよう。

初めて訪れるオーストリアに思いを馳せ、ブランケットに(くる)まって眠りに就いた。
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