初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
国立オペラ座の裏手に建つホテルの一階にあるカフェ・ザッハーに入り、彼が慣れた様子でオーダーを済ませる。
赤い絨毯と白い壁が目を引く店内はソファ席が多く、ゆったりとくつろげそうだ。
「直君はいつ帰るの?」
「俺は明後日」
「そうなんだ」
彼と向かい合って、短い会話を交わす。
私より一日多く、オーストリアに滞在できるのをうらやましく思っていると、エスプレッソにスチームしたミルクをのせたメランジュと呼ばれるコーヒーとザッハトルテが運ばれて来た。けれど、メランジュはふたつあるのに、ザッハトルテがのったお皿はひとつしかない。
オーダーを間違えたのか、それとも店側の手違いなのかわかからず戸惑っていると、彼に「どうぞ」と促された。
「直君は食べないの?」
「甘い物は、あまり好きじゃないんだ」
彼が苦笑いをしてメランジュに口をつける。
ウィーン観光に浮かれて、甘い物が苦手な彼をザッハーに連れてきてしまうなんて迂闊だった。
「そうだったんだ。付き合わせてごめんなさい」
「いや。俺にかまわず食べてくれ」
いつまでも遠慮していては彼が気にするだろうし、オーダーした物に口をつけないのはお店にも失礼だ。