初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
「いただきます」
チョコレート生地の上から、さらにチョコレートをコーティングしてあるザッハトルテを口に運ぶ。
「どう?」
「おいしいけど、すごく甘い」
「だろうな」
彼がテーブルに頬杖をついて、ため息をこぼす。
スイーツ好きな私でさえ、このザッハトルテはかなり甘いと感じる。
直君が食べたら、どんな反応をするのだろうと考えただけで笑いが込み上げてきた。
「なに?」
「ううん。別になんでもないよ」
ひとりでニヤニヤする私を見て、彼が怪訝な顔をする。
意外と表情豊かな彼に親近感を抱き、午後のティータイムを楽しんだ。
「今日は楽しかったです。ありがとう」
昨日と同じように、ホテルの部屋の前まで送ってくれた彼に頭を下げる。
今回のオーストリア旅行も、明日の帰国を残すのみ。これでお別れだと思うとなんだか切なくて、まだ一緒にいたいという気持ちが胸に込み上げてくるのを止められない。けれど、昨夜『危機感を持ってくれ』と注意された手前、私から声はかけづらい。
この胸の内を打ち明けるには、どうしたらいいのだろう。
頭を悩ませていると、彼が腰を屈めた。
「今日は誘ってくれないのか?」
「えっ?」
不意に顔を覗き込まれ、心臓がドキリと跳ね上がる。