初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
もしかしたら直君も、このまま別れるのは寂しいと思っているのかもしれない。
淡い期待を抱き、彼の本心を探るように切れ長の瞳を見つめた。
「冗談だ」
彼が小さく笑って姿勢を正す。
別れを惜しんでいるのは自分だけだった事実が胸に痛くて、涙がジワリと込み上げてくる。でも、少しからかわれただけで泣き出す、面倒な女だと思われたくない。
唇をキュッと結び、涙がこぼれ落ちるのを必死に堪えた。
「明日も十時に迎えに来るから、そのつもりで」
「えっ?」
「空港まで送る」
思いがけない言葉に驚き、弾かれるように顔を上げる。
見送ってもらえるのはうれしいけれど、旅行中である彼の予定も気になる。
「いいの?」
「もちろん」
遠慮がちに尋ねる私に、温かいまなざしを向けた彼がコクリとうなずく。
直君のひと言で、沈んでいた気持ちが一気に上がる私は単純だ。
「ありがとう」
「どういたしまして。それじゃあ、また明日」
「うん。気をつけて」
明日も会える喜びに浸り、エレベーターに乗り込む彼の姿を見届けた。
それにしても、昨日再会したばかりの彼との別れを、こんなに寂しく思うのはどうしてだろう。
自分でもよくわからない感情に戸惑いながら、ロックを解除して部屋に入った。