初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
ウィーン滞在の最終日。時間通りにホテルまで迎えにきてくれた彼とともに、電車でウィーン国際空港に向かう。
結城のおじさまの演奏は素晴らしかったし、彼と過ごした日々はとても楽しく、ウィーンの旅は思い出深いものになった。
「また、オーストリアに来たいな」
「そうか」
「うん」
車窓の外に流れる景色を見つめて、ひとり言のようにつぶやいただけなのに、相づちを打ってくれる優しさがうれしい。
旅の終わりは、どうしてもセンチメンタルな気持ちになってしまうものだけど、いつにも増して物悲しさを感じるのは、彼との別れが迫っているからだ。しかし、いつまでもしんみりしていても仕方ない。
「直君は帰国まで、どう過ごすの?」
「この後、知り合いと会う約束をしている」
気持ちを切り替えて違う話題を振ってみたものの、これから会う人が男性なのか女性なのか気になってしまう。
「そ、そうなんだ」
「ああ」
平静を装って返事をしても、気持ちがざわついて落ち着かない。
もしかしたら、これは嫉妬ではないかと思ったけれど、彼の言う知り合いが女性かどうかもわからないのに、ヤキモチを妬くなんてあり得ない。