初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
「やはり、小夜子ちゃんはブルーが似合う」
瞳を細めて紡がれた甘い褒め言葉が恥ずかしくて、頬が熱く火照り出す。
「ありがとう。大切にする」
「ああ」
彼と初めて出会ったときも、ウィーンのコンサートホールで再会したときも、私はブルーのドレスを着ていた。それを忘れずに、同じ色のバレッタを選んでくれた気遣いがうれしい。けれど、別れ際にプレゼントをもらったら、ウィーンを去るのがますますつらくなってしまう。
直君と離れたくない。もっと一緒にいたい。
七歳の私が胸に抱いた淡い思いが二十年のときを経て、たしかな恋心となって芽生えたのを自覚した。
このまま二度と会えなくなるのではないかという不安が、涙となって瞳からこぼれ落ちる。
「日本に帰ったら、また会ってくれる?」
「もちろん」
別れを惜しむ私の頬に伝う涙を、彼が指先で優しく拭ってくれる。その温もりを心地よく思っていると、小さな笑い声が耳に届いた。
「泣き虫なところは昔から変わってないな」
朗らかに笑う彼の脳裏には、うまくピアノが弾けずに泣いた幼い私の姿が浮かんでいるのだろう。
「直君と会えてよかった。ありがとう」
「俺も小夜子ちゃんと再会できてうれしかったよ。また東京で会おう」
「うん」
彼の記憶に残る私の姿が泣き顔から笑顔に変わることを祈り、唇の端を上げて別れの挨拶を交わした。