初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
ふたりが一度しか会っていない彼の存在を、忘れずにいてくれたのをうれしく思いながら、鍵盤を軽やかにタッチする昔の直君の姿を懐かしむ。けれど、陽太の失礼なひと言のせいで、夢見心地な気分も吹き飛んだ。
「二十年振りに会ったなら、オッサンになっていてガッカリしたんじゃねえの?」
「そんなことないよっ! 直君はクールだけど優しくて、紳士的で頼りがいのある大人の男性なんだから」
鼻先で笑う陽太に鋭い視線を向けたものの、彼の話をしているうちに頬が勝手に緩み出してしまう。
直君、元気かな。
彼への思いを募らせていると、隣に座っている真紀に顔を覗き込まれた。
「ねえ、小夜子? もしかして直君を好きになっちゃったんじゃない?」
「……うん」
幼なじみで親友でもあるふたりに、隠しごとはできない。
直君を好きだと認めてコクリとうなずく。
「それ、勘違いだろ。頼る人のいない外国で、昔の知り合いに会って親切にされたら、誰でもいい男に見えるさ」
「そんなことないからっ!」
昔は泣き虫で小さかったのに、いつの間にか身長も態度も大きくなった陽太にイラついて反論すると、真紀が仲裁に入った。
「まあ、まあ。ふたりとも落ち着いて」
彼女の明るい声を聞き、不快な感情が徐々に静まる。