初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
どうしたらいいかわからず戸惑っていると、大きな手が静かに離れる。
「今度、コーヒーをごちそうしてくれるとうれしい」
後部座席のシートに深くもたれかかった彼が、瞳を細めて微笑む。
いつまでも支払いで揉めるのはスマートじゃない。
「うん。わかった。今日はありがとう。お寿司、とてもおいしかったです。ごちそうさまでした」
「どういたしまして」
彼の口から出た『今度』という言葉をうれしく思って頭を下げた。しかし、浮かれてばかりもいられない。
「直君、あのね……」
「ん?」
気を引きしめて、お見合いの話を切り出そうとした。けれど、対向車のライトがあたる美しい横顔に見惚れてしまい、言葉に詰まる。
自分から声をかけたのに、黙ったままではいられない。
「な、直君は……今どこに住んでいるの?」
彼にときめいてしまったのを誤魔化すように、作り笑いをして尋ねた。
「恵比寿のマンションに住んでいる」
「へえ、そうなんだ。霞が関に近くていいね」
私は自宅の最寄り駅から電車を二回乗り換えて、自由が丘の教室に通っている。
恵比寿駅から外務省がある霞が関駅まで乗り換えなしで移動できるのをうらやましく思っていると、彼がクスッと笑った。