初恋マリッジ～エリート外交官の旦那様と極上結婚生活～

常に自信に満ちあふれている彼が、歯切れ悪く返事をするのは珍しい。

「直君？」

「小夜子ちゃんが困っているなら力になりたいし、俺も久しぶりにご両親に会いたいからな」

普段とは少し違う様子が気になって声をかけると、彼が白い歯を見せてニコリと微笑み、シートにもたれかかっていた体を起こした。

「次の信号を左折して、二番目の十字路を右に曲がった先で止めてください」

「はい」

運転手に経路を説明する彼の声を聞き、あと少しで家に着くと気づく。

「本当にいいの？」

「ああ、もちろん」

しつこく確認する私がおもしろかったようだ。彼が短い返事をして小さく笑う。

「ご両親の都合を聞いて、連絡してくれ」

「うん。わかった」

私たちの話が終わるタイミングを見計らったように、タクシーが家の前で止まった。

後部座席のドアが開き、先に外に出た彼の手を借りてタクシーから降りる。

最後まで気を抜かずにエスコートしてくれる彼は、やはり紳士的だ。

「今日は本当にありがとう」

「俺の方こそありがとう。じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」

彼が再び後部座席に乗ると、ドアがパタンと閉まる。

一時はどうなるかと思ったけれど、話がまとまってよかった。

心が広い彼に感謝して、タクシーが見えなくなるまで手を振って見送った。