初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
心に燻る思いに蓋をして、無理に笑顔を作る。しかし、彼は微笑み返してはくれなかった。
「本気だと言ったら、小夜子ちゃんは困るか?」
「えっ?」
「俺は小夜子ちゃんと結婚したいと心から思っている」
私に真剣なまなざしを向ける彼の口から出た言葉が、ふたりきりの室内に響く。
突然プロポーズされても、どう受け止めていいのかわからない。
落ち着きなく視線をさまよわせていると、私を安心させるように彼が笑みを浮かべた。
「返事を聞く前に、小夜子ちゃんに知っておいてもらいたい話がある。少し長くなるが、最後まで聞いてほしい」
「はい」
目の前に差し出された大きな手に自分の手を重ねる。そして、彼に手を引かれて窓際に移動するとソファに腰を下ろした。
ふたりの間に張り詰めた空気が漂うなか、話が始まるのを待っていると、彼が髪をクシャリと掻き上げる。
「なにから話せばいいのか悩むな」
どうやら、緊張しているのは私だけじゃないようだ。
「ねえ、直君。一緒にピアノを弾かない?」
明るい曲を弾けば気分も上がるし、久しぶりに彼の演奏も聞きたい。
少しでも場が和めばいいと思い、彼の顔を見上げた。けれど期待も虚しく、彼が力なく肩を落とす。