初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
「そうだな。小夜子ちゃんの言う通り、年度末で退職するのがベストだと俺も思う。ピアノに関しては現地での生活に慣れたら、在留邦人を相手に自宅で個人レッスンをするのもいいかと考えているんだ」
「えっ? 本当に?」
「ああ」
幼い頃から毎日ピアノを弾いて育った私が、寂しい思いをしないように気を遣ってくれたのだろう。
彼の思いやりが胸に染み入る。
「ありがとう」
感動で胸を熱くしてお礼を言うと、オーダーしていた料理とコーヒーが運ばれて来た。
大きなお皿の上には、たっぷりのサラダとグリルチキン、ほうれん草とベーコンのキッシュにベーグルパンがのっている。
声を揃えて「いただきます」と挨拶すると、早速サラダを頬張った。
「それから、小夜子ちゃんを両親に紹介したいんだけど、八月の夏休みに俺と一緒にマレーシアに行ってくれないか?」
彼の叔父あたる結城のおじさまとは何度も顔を合わせているけれど、ご両親には今まで一度も会ったことがない。
「は、はい。もちろん」
「ありがとう」
真面目で誠実な彼を育てたご両親はいったい、どんな方なのだろう。
まだ先の話にもかかわらず、緊張して返事をすると彼がクスッと笑った。