初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
ランチを食べ終え、手を繋いで映画館へ向かう。
食事をしながらスマホで予約したミステリー映画が上映されるスクリーンに入り、シートに腰を下ろす。
「寒くないか?」
「うん。大丈夫」
梅雨入りした東京は蒸し暑い日が続いていて、館内は冷房が効いている。
私の様子を気遣う細やかな気配りをうれしく思っていると照明が落ちて、映画の予告が始まった。
最後に映画を観たのはいつだったかなと考え、スクリーンをぼんやりと見つめる。すると、彼の腕がこちらに向かってスッと伸びてくるのが視野に入った。
瞬く間に、彼の左手が私の右手の甲に重なる。
「っ!」
突然のスキンシップに驚いて視線を向けると、彼と目が合った。
「嫌か?」
館内は暗くても、周りの目が気になる。でも本編が始まれば、みんな映画に夢中になるはずだ。
心地いい温もりを手放したくなくて、私の耳もとに口を寄せてささやく彼の横で、首をフルフルと左右に振る。
ふたりで静かに微笑み合うと、本編がスタートした。
ミステリー映画は一瞬でも気を抜くと話についていけなくなるとわかっているのに、指先を絡ませてくる彼の動きが気になってちっとも集中できない。
今度、直君と映画を観るときは、ミステリーは避けよう。
そう心に決めた。