初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
「キャッ!」
反射的にうしろに下がったものの、飛びかかる雨水を避けられず、花柄のワンピースとフラットシューズが濡れる。
「大丈夫か?」
濡れたのは膝から下だけで済んだけれど、ワンピースの裾から水滴がポタポタと落ちてくる。
直君にかわいく見られたくて選んだワンピースも、これじゃあ台無しだ。
「……あまり大丈夫じゃないかも。直君は?」
「俺も結構濡れた」
「本当だね」
彼のチノパンも、色が変わるほど濡れている。
「このままだと風邪を引くな。ウチで乾かそう」
「えっ?」
思いがけない流れに戸惑う私にかまわず、彼が手を上げて通りかかった空車のタクシーを停めた。
「乗って」
「う、うん」
彼に急かされ、後部座席に乗り込む。
「恵比寿まで」
「はい」
私に続いた彼がシートに座り、運転手に行き先を伝えるとタクシーが発進した。
ひとり暮らしをしている彼のマンションに行くのは今日が初めて。どんな部屋で生活しているのか興味が湧くけれど、今はそれよりも大事なことがある。
バッグからハンカチを取り出し、前屈みになって彼の足もとに手を伸ばした。
「俺は大丈夫だから」
彼が私の動きを制するように二の腕を掴む。その力に抵抗できずに体を起こすと、ハンカチを取り上げられてしまった。