初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
「ああ、これか」
納得したようにうなずいた彼が立ち上がり、キャビネットから楽譜を取り出した。
「なかなか処分できなくてな」
ひとり言のようにつぶやいた彼が楽譜をめくる。すると、数枚の写真が床にバラバラとこぼれ落ちた。
マグカップをテーブルに置き、急いでソファから立ち上がって写真を拾う。
「ありがとう。ウィーンの大学に通っていたときの物だ。こんなところに挟まっていたとは思わなかった」
私から写真を受け取った彼が、昔を懐かしむように瞳を細めた。
飲み会のときに撮ったと思われる写真には、ビールが注がれたグラスを持った直君を囲むように数人の男女が写っている。
大学生の彼の姿を見るのは初めて。私の知らない直君の姿を、この目に焼きつけたいという気持ちが膨らむ。
「もっと見てもいい?」
「どうぞ」
拾い集めた写真を受け取ってソファに座り、一枚一枚を食い入るように見つめる。
彼は以前、『世界トップレベルのレッスンはとても刺激的で毎日が楽しかった』と、大学時代の思い出を語ってくれた。
その言葉通り、写真の中の彼は希望に満ちあふれた笑みを浮かべている。