一途な敏腕社長はピュアな彼女を逃さない
凪沙さんが部屋を出ていってから
私はずっと絵に集中することができずにいた。


こんな沈んだ気持ちのままじゃ、
良い絵なんてかけるはずがない...


私は描くことを諦めていつもより早めに
仕事を切り上げることにした。

私は部屋を出ると鬱々とした気分のまま
エレベーターへと乗り込んだ。

そして、一階のボタンを押して
完全に扉が閉まると
壁に体を預けて、ハアッと大きく息をついた。

凪沙さんとお友達になってしまった...

決して、凪沙さんが嫌いと言うわけではない

むしろ、彼女の物怖じしない堂々した振る舞いに憧れる部分もある

こんな私とお友達になりたいと言ってくれることはとても有り難いことだし、正直、嬉しかった。


だけど...凪沙さんは神崎さんの婚約者なのだ。



エレベーターが一階で止まり、扉が開くと
私はフゥっと息をついてエレベーターを降りた。


そして、エントランスを通り受付嬢に
「お先に失礼します」とペコリと会釈をしてから
自動ドアを通り抜け、外へと足を踏み出した。


いずれ二人は結婚してしまう...


そのとき、私は友達として二人を前に
笑顔で祝福できる自信がない...


私はポツポツと並木通りを歩きながら
黄昏時の空を見上げた。

まだわずかに残っている夕焼けのオレンジ色も藍色に染まろうとしていた。

もうすぐで太陽は完全に沈んで
辺りは真っ暗になってしまう...


それは神崎さんとのこの幸せな生活に
終わりがあることを意味しているようで
寂しさが込み上げてくる。


神崎さんが他の人と結婚するところなんて
見たくない...


私は思わず立ち止まると
頬にツゥーっと一筋、涙が伝い落ちた。


寂しくて泣くなんて子どもみたい...


私は急いでハンドバッグの中から
ハンカチを取り出した。

そのとき、


「かよ子さん!!」


ふいに後ろから誰かに呼ばれた。

私は急いでハンカチで涙を拭うと
声のする方へ振り返る。


そこには肩で息を切らせた
一色さんの姿があった。


「良かった間に合って」


一色さんは乱れた呼吸を整えながら
ホッとしたようにニコッと微笑んだ。


< 145 / 343 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop