一途な敏腕社長はピュアな彼女を逃さない

そして帰り際、スーパーに寄ったかよ子は

買い物袋を手に玄関のドアを開けた。


あれっ？神崎さん？


翼の帰りは遅いだろうと予想していたのだが

かよ子の目線の先には無造作に脱ぎ捨てられた

黒い革靴が転がっていた。

しかも、いつもはいくら帰りが遅くとも

脱いだ靴はキチンと揃えられているのに

今日は片方ずつ明後日の方向を向いて転がっている。


「神崎さん...?」


かよ子は靴を脱ぐとその場にしゃがんで

自分の靴と一緒に翼の靴を揃えた。


そして、立ちあがり振り返ると

突き当たりのリビングへと目を向けた。

リビングの電気は着いておらず、

シーンと静まり返っている。


「神崎さん？」


もう一度、呼んでみるが中から返事はない。

かよ子はゴクリと喉をならして

恐る恐る足を進めた。

リビングのドアを開けて

暗がりのなか、電気のスイッチを探して

押すとパッと部屋が明るくなった。

かよ子がリビングを見渡すと

黒革のソファに目を止めた。

スーツのままの翼が

ソファの上に仰向けに横たわり、

額に手の甲を当てて

苦しそうに顔を歪めていたのだ。


「神崎さん！」


驚いたかよ子は買い物袋を床に置くと

すぐさまソファに横たわる翼のもとに

駆け寄った。

床に膝をついて翼の顔を覗きこむと

翼は真っ赤な顔で、呼吸も荒く

苦しそうな表情を浮かべている。

かよ子は翼の額に当てた手をそっと退けると

代わりに自分の手のひらを当てた。

すごい熱だ。

動揺したかよ子が手を離すと

翼がゆっくりと目を開けた。


「かよ子さん...?」


「神崎さん、大丈夫ですか？」


辛そうな表情の翼に、かよ子は心配そうに

翼の顔を覗き込んだ。


「かよ子さん...心配させてすまないね...

出張先の京都で体調を崩してしまって...」


かよ子は翼の言葉にふるふると首を横に振ると


「神崎さん、とりあえずベッドで寝ましょう？

立てますか？」


翼をゆっくりと起き上がらせて

支えながら寝室のベッドまで付き添った。