一途な敏腕社長はピュアな彼女を逃さない

「あっ、ごめんなさい...起こしちゃいました。」

私は神崎さんの頭を撫でていた手をサッと引っ込めた。


「いや、熱のせいか怖い夢を見てたから助かったよ」


そう言いながら神崎さんはゆっくりと体を起こした。


「怖い夢ですか...？」


私が首を傾けると
神崎さんはどこか不安な表情を浮かべている。


「あぁ、かよ子さんが俺からどんどん
遠ざかってしまう夢...
俺は一番それが怖い...」


そう言って神崎さんは力なく笑った。


「神崎さん...大丈夫です...
ほら！私はここにいます！」


不安げな表情を浮かべる神崎さんに
私は両手を広げておどけてみせる。


「かよ子さん...」


神崎さんは私の手をグイッと引くと
思いきり抱き締めた。


「かよ子さん...ずっと俺のそばにいて...」


「神崎さん...」


「どこにも行かないと約束して...」


神崎さんの抱き締める手に力がこもる。


「...大丈夫ですよ...」


私は自分よりも大きな背中に手を回すと
なだめるようにゆっくりとさすった。


折角、神崎さんが弱音をこぼしてくれたのに
私は大丈夫としか言うことができない...


時折、「大丈夫」と、
まるで自分にも言い聞かせるように
神崎さんの背中を優しくさすりながら囁いた。


どこにも行かないとは言えなかった...


多分、私は神崎さんが結婚したら
ここを去ることになるだろう…

だから神崎さん...その約束は出来ないんです...


私は唇を噛み締めると
そっと体を離して神崎さんを見上げた。


「あっ、そういえば、お粥作ったんです！」


そして、神崎さんが安心できるように精一杯の
笑顔を向けた。