一途な敏腕社長はピュアな彼女を逃さない
何故、俺はかよ子さんの気持ちが固まるまで
待つなんてことを口走ってしまったのだろう...


絵付体験のあと、旅館にチェックインした
俺とかよ子さんは食事の前に
軽く露天風呂に入って汗を流してきた。

そして今は浴衣姿に髪をアップにした
かよ子さんが目の前で美味しそうに
懐石料理に舌鼓を打っている。

あの時、彼女の気持ちを尊重したいと思ったのは嘘じゃない...

しかし、かよ子さんの浴衣姿は
俺の想像を遥かに越えていた。


白地に赤い紅葉柄の浴衣の上に
羽織った赤い羽織りが
一層、彼女の白い肌を際立たせている。


そして、浴衣から覗かせる白いうなじが
なんとも艶かしくていやがおうでも俺の視線を誘う。


俺は今朝、かよ子さんに言ったことを
激しく後悔した。


だって好きな女の前なら誰だって
格好もつけたくなるだろう...?


でも、こんな浴衣姿を目の前で見てしまったら決心なんてあっという間に揺らいでしまう。


俺はなんだか後ろめたくなり、
かよ子さんの浴衣姿からなんとか視線を
離すと、はぁっと大きく息を吐いて項垂れた。


「神崎さん、どうしました?」


かよ子さんは少し心配そうに黒い瞳を揺らして覗き込んでくる。


そんな可愛い瞳で見つめないでくれと
心のなかで叫びながら、なんとか平静を装う。


「いや、少し露天風呂に長く入りすぎたみたいだ。ここの料理は気に入ってくれたかな?」



「はい!とっても美味しいです」


かよ子さんはニコッと笑顔を向けると
お寿司をパクリと口に入れた。


幸せそうにモグモク頬張るかよ子さんは
まるでハムスターのように可愛くて
俺の心臓を鷲掴みにしてしまう。


俺は気を紛らわすべく、
頭をグルグルとめぐらせて話題を探すと、
ハッと思い付いたように口を開いた。

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