一途な敏腕社長はピュアな彼女を逃さない
「そういえば、かよ子さん...」


俺の声にかよ子さんは箸を手に
ひょいと顔を持ち上げる。


「啓大さんとご友人の結婚式なんだけど
うちのホテルで挙げることになったよ。
オープンして第一号に式を挙げるお客様として提案したら喜んで承諾してくれたよ」


俺の言葉にかよ子さんの顔が
ぱあっと華やぐ。


「とても素敵な案だと思います!
きっと良い結婚式になりますね。
神崎さん、ありがとうございます!
楽しみだなぁ...」


自分のことのようにウキウキと浮き足立つ
彼女に俺の顔も破顔してしまう。


「最近、忙しくてなかなか見に行けてないけど絵の方は順調?」


「はい。
もう色付けに入ってますし、
夏前には完成しそうです」


嬉しそうに笑みを浮かべる彼女に
俺は絵が完成したら前の家に帰ってしまうのではと不安になった。


「絵が完成しても、マンションにいてくれる?」


俺は祈るようにかよ子さんの顔を見つめる。


「神崎さんがいても良いって
言ってくださるなら...」


「当たり前だよ!!
かよ子さんが帰りたいって言っても
帰してなんかあげないよ!」


俺の言葉にかよ子さんは
「良かったぁ...」
と、安心したように頬を緩ませた。


その瞬間、俺の胸がキュッと音をたてる。


その安心したような笑みに
俺はかよ子さんの望むことなら
何でもしてあげたいと思った...


我が儘だっていくらでも聞いてやりたいと思った...


そんなことを伝えたら
きっと彼女は困った顔をするだろう...


そんな彼女に俺は
いくらでも甘やかしたいという衝動を
掻き立てられる。


娘を溺愛する父親の気持ちが今ならわかる...


俺にはその溺愛に欲情が混じってしまう分、
今はとても厄介だ...

今だけはその欲情を押さえなくてはならないからだ...

そうだ...

今夜だけはかよ子さんのことを娘だと
思うことにしよう...


そう自分に言い聞かせるように
俺は寿司を箸で掴むと、口のなかに放り込んだ。



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