一途な敏腕社長はピュアな彼女を逃さない
Sideかよ子


ついにこの時間が来てしまった...


本日、2度目の温泉を満喫した私達は
今、畳の上に敷かれた二組の布団の前で
ゴクリと喉を鳴らして立ち尽くしていた。


「そ、そろそろ寝ましょうか...」


「あ、あぁ...先にかよ子さんどうぞ...」


「あ、ありがとうございます...」


私はドキドキしながら、左側に敷かれた
シングルの布団に入り込む。

そして、一瞬戸惑った様子の神崎さんは
迷った末、右側の布団へ入り込んだ。


神崎さん、今日は一緒には寝ないんだ...


いつもは一緒の布団で眠る神崎さんが
隣の布団を選んだことに
ズキッと胸が痛む。


きっと神崎さんは私のことを気遣って
隣の布団を選んだのだろう...


分かってはいるのに

それを寂しいと思ってしまう私は
自分勝手にも程があるよね...


私が寂しげに表情を曇らせていると、

「かよ子さん...今日は楽しかったよ。
また、一緒に来ようね」

隣から神崎さんの優しい声が
聞こえてきた。


「神崎さん、私もとても楽しかったです。
今日は本当にありがとうございました。」


「うん...こちらこそ、ありがとう...
それじゃあ、おやすみ」


「はい...おやすみなさい...」


隣にいるのになんだか神崎さんが遠くに感じる。

私は思わず布団を握りしめると、
ギュッと目をつぶった。


それから一時間は経っただろうか...


なんだかいっこうに眠れそうにない...


私が布団の中でひとりモゾモゾと
眠れない焦りで何度も寝返りを打っていると
ふと隣に寝ていた神崎さんが
ごそごそと布団から起き上がった。

そして、私を起こさないようにそっとふすまを開けると隣の部屋へ出ていく気配がした。


トイレにでも行ったのだろうか..?


しかし、神崎さんは30分ほど経ったが
帰ってくる気配はない...


私は不安になって体を起こした。

そして、真っ暗の部屋のなか、立ち上がると
そっとふすまを開けた。


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