一途な敏腕社長はピュアな彼女を逃さない


そして夕食を食べ終えると
私は自室へ入ってクローゼットをゴソゴソと漁りだした。

確か...まだこの辺にしまってたはず...

「あっ、あった!」

手にしていたものは男物のストライプがらのパジャマだった。

父が亡くなってからもどうしても捨てられずしまっていたものだ。
自分の衣替えのときに一緒に毎回洗濯してたから大丈夫だよね...

私はパジャマを手に取り、
再び神崎さんの待つリビングへと向かった。


「あ、あの...
お風呂が沸いたのでお先にどうぞ...
あと...これ父のパジャマですが...
良かったら...」


正確に言うと亡くなった父のパジャマなんだけど気を悪くしたらいけないし
言わない方がいいよね...


「ありがとう!
お先にお風呂頂いてもいいんですか?」


「はい...どうぞ...
私はまだ絵の続きも描きたいですし...」


私はペコリと頭を下げて
踵を返した


そのとき...


グイッ

神崎さんはふいに私の腕を掴むと自分の方へ引き寄せた。

「じゃあかよ子さんも一緒に入りますか?」


そして、私の耳もとでボソリと囁いた。


「・・・・・・・!!」

その瞬間、私の顔は火を噴いたようにボッと赤くなった。

「なんて、冗談で..」

「か、からかうのは...
やめてください!!」

動転した私は神崎さんの言葉を遮って手を思いきり振り払うと、真っ赤な顔で片方の耳を押さえたまま後退りした。



「すみません!冗談のつもりだったんだけど
そんなに驚くとは思わなくて...」

驚いた神崎さんは申し訳なさそうに
手を伸ばそうとするが、再びビクッと
肩を震わした私に手を引っ込めた。


「い、いえ…
布団を出してくるので…
さきにお風呂…どうぞ…」


タタタタタッ...


パタンッ


私は神崎さんに目を合わせることなく
足早に自室へ入って扉を閉めると
ドアを背にズルズルと床にへたりこんだ


「俺は馬鹿だな...」

一人取り残された神崎さんが、焦って距離を縮めようとした自分を後悔していたなんて私は思いもしなかった。
















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