一途な敏腕社長はピュアな彼女を逃さない
『かよ子さん、そういえば体は大丈夫?』


え?体...?


神崎さんの言葉に首を捻るが
すぐに昨夜の情事のことを指しているのだと分かり再び顔から火がついたように熱くなった。


「だ、大丈夫です!
もうお腹の痛みも和らいできましたし...」


『そっか、それなら安心したよ。
昨日は無理させちゃったからね...』


「そんな...無理だなんて...」


私が受話器を握ったまま
恥ずかしに返答に困っていると

トントントン

部屋の扉がノックされた。

私が扉に目を向けると
ドアが開いてひょいと一色さんが
顔を覗かせた。


「えっ?一色さん...?」


「かよ子さん、お疲れ様!
あっ、ごめん...電話中だった?」


一色さんは受話器を手にした私を見て
しまったという顔をしている。


「あっ、はい...」


そういえば私、あのとき一色さんが告白して
くれたのにも関わらず、断ったあと逃げるように走り去ってしまった...


「すみません...神崎さん。
ちょっと一色さんが来られたので
また折り返します。」


『えっ?』


慌てていた私は電話越しに戸惑う神崎さん
に気づくことなく、
ガチャリと受話器を置いた。


「いきなり来てごめんね...」


一色さんが申し訳なさげに、
部屋に入ってきた。


「いえ...こちらこそ、
あのときは、走って帰ったりしてすみません...」


急いで立ち上がると深く頭を下げて
再び視線を一色さんに戻した。


気のせいだろうか...


一色さんの瞼が少し腫れているような気がする...


一色の目元をじーっと見つめていると、


「目が腫れてるのバレるよね...
あのあと男の癖に失恋して大号泣だったよ。
自分から告白したのは初めてだったから
さすがにへこんだなぁ。」

一色さんは恥ずかしそうに、
目元を手で隠すしぐさをした。
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