一途な敏腕社長はピュアな彼女を逃さない

「はい、庭の草むしりも終わったので
あとは掃除機と拭き掃除をして
帰るだけですよ...」


『そっか...それなら良かった...
実は母が急遽、一時帰国したんだ。
かよ子さんにも会いたいと言っているから
夕方、迎えに行ってもいいかな...?』


「えっ...お母様が...?」


思いがけない神崎さんの言葉に、
私に緊張が走る。


『うん...僕も一緒だから心配しないで』


私の不安を察して投げ掛ける神崎さんの優しい声色に私はキュッと受話器を握り締めた。


「はい...私もお母様にお会いしたいです」


「かよ子さん、ありがとう...
じゃあ、18時頃迎えに行くから」


「よ、よろしくお願いします...」

私は思わず受話器を持ったまま
深々とお辞儀をした。


「ハハッ、あんまり緊張しなくて大丈夫だよ」


神崎さんは私を安心させようと、わざと
明るく振る舞う。


きっと神崎さんも不安なはずだ...

私が暗いと余計に心配させてしまう...


「はい...ありがとうございます...
私なりに頑張ってみます」


私は神崎さんに心配させないよう、
精一杯、明るい声で言った。


それから、私は二言三言、神崎さんと会話をしてから受話器を置いた。


神崎さんには頑張ってみると言ったが
私はお母様とうまく話せるだろうか...


それに、もし、失敗して嫌われてしまったら...


私は緊張からどんどん悪い方へと
気持ち流れていく。


駄目だ...いけない...


私は胸に手を当てて、
不安を吐き出すように
大きく深呼吸した。


取りあえず、あとは家の中の掃除をして
手土産も買いに行かないと...


不安で押し潰されそうになる気持ちを
誤魔化すように急いで掃除に取り掛かった。



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