一途な敏腕社長はピュアな彼女を逃さない
ドアを開けた先に私の姿を目にして
満面の笑みを浮かべる神崎さんの姿があった。

ドキッ

今度は今までと違う感覚で心臓が高鳴った。

「カヨ子さん...やっと君に会えた...」


神崎さんの嬉しくてたまらないというような
満面の笑みはまるで御主人様に尻尾を振って喜ぶ犬のようだった。

「かよこさんに会うために、頑張って仕事を終わらせてきたんだ。でも、頑張った甲斐があったよ。」

ここまで嬉しそうにされると
はっきりと断ると決心したはずなのに
少し決心が鈍ってしまう。

神崎さんは何でこんなに嬉しそうなんだろう...

「あ、あの...」


喋ろうとするが
わくわくとした様子で返事を待つ神崎さんに
戸惑って言葉がでない。

言葉に詰まったままの私にしびれを切らした神崎さんが先に口を開いた。

「今日は早く来れなかったお詫びと、この間のお礼にとびきり美味しい食事をご馳走するよ」


そう言って神崎さんはいきなり私の手を取ってきたので、「は、離してくださいっ」とビックリして思い切り振り払ってしまった。


「あっごめん!」

神崎さんは私の反応にすぐに手を引っ込める。

「す、すみません!
あの、この間お話しした通り
お礼は結構ですのでお帰りください」

私は神崎さんに向けて一礼をすると目を合わすことなく踵を返した。

「えっ?かよ子さん?」

慌てたような神崎さんの声を無視して
私は玄関のドアノブに手を掛けた。

しかし、「待ってください!」と神崎さんに
腕をグイッと引っ張られた。


「えっ?」


次の瞬間

神崎さんの胸にぶつかったと思ったら
ふわっといきなり身体が宙に浮いて
軽々と神崎さんにお姫様だっこされていた。

何が起こったのが分からないまま、目の前の神崎さんに目を向ける。

「逃さないよ。
今度は無理矢理連れて行くって
いっただろ?」

神崎さんは妖艶な笑みを向けた。


そして石のように固まった私を抱えて
神崎さんは自身の車まで足を進めた。


少しの間、
思考が止まっていた私だったが
ハッと我に返り足をばたつかせた。

やだ!こんなの恥ずかしい!

「ちょ、ちょっと下ろしてください!
警察呼びますよ!」


そして目の前の神崎さんを
威嚇するように思いきり睨み付けた。


「そんな可愛い顔で睨んでも
逆効果だよ」

睨まれているのにも関わらず、嬉しそうに笑う神崎さんに耳まで熱くなる。

そんな私を神崎さんは愛しいものでも見るような眼差しで見つめてくる。

「はぁ、可愛すぎて困ったな。
ごめん...ちょっと充電させて...」

そして私をお姫様だっこしたまま
そっと自分の胸に抱き寄せた。
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