一途な敏腕社長はピュアな彼女を逃さない
抱き寄せられた神崎さんの胸は
意外にもドドドドっと激しく鼓動を鳴らしていた。


私は思わず見上げると
神崎さんは恥ずかしそうに
ふぃっと目線をそらした。

緊張しているのは自分だけかと思っていたが
神崎さんも表には見えていないだけで
もしかして、緊張しているのではないだろうか。

「緊張してたのが、ばれてしまったかな」

神崎さんはそう言って苦笑いした。

そんな神崎さんに不覚にもちょっと
可愛いと思ってしまう。

「あの...どの神崎さんが
ほんとの神崎さんですか...?」


「えっ?」


神崎さんは私の問い掛けに反らした目を
再び私に戻した。


「あっ、あの...

この間から色々な神崎さんを見て
優しいのか意地悪なのか
何が本当なのか
分かんなくなってしまって...」


「あぁ、そういうことか...
多分、全部ほんとの俺だと思う。
俺自身こんな気持ちはじめてだから...
きっと君を振り向かせたくて必死なんだ」


そう言って恥ずかしそうに苦笑いする神崎さんに胸がトクンと小さく跳ねた。


そして神崎さんは壊れ物を扱うように
私をそっと車の前に下ろすと、助手席のドアを開けた。


「こんな必死な俺にどうかチャンスをくれませんか...」

恥ずかしそうに頭を下げる神崎さんに
思わずクスクスッと笑いが込み上げてきた。

「ご、ごめんなさい」

私は思わず笑ってしまって、慌てて手で口を覆った。


しかし、そんな私を優しい眼差しで見つめる神崎さんに、私はコクンと思わず頷いていた。


「商談が成功するより
嬉しいことってあったんだな...」


神崎さんはハハッと照れくさそうに笑った。

そして「どうぞ」と私をエスコートして
助手席に乗せた。

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