一途な敏腕社長はピュアな彼女を逃さない

「これは田沢社長、ご無沙汰してました」


俺は作った笑顔で
田沢社長が差し出している手を握った。


「素晴らしいホテルだね。
娘とも一度泊まってみたいと
話していたところだよ」


「それは有り難いお言葉です。
お泊まりの際は私にひと言、言っていただければスイートルームを確保致しますので...」


俺が営業用のスマイルを二人に向けると
娘はポッと顔を赤らめて
何やらコッソリと父に肘でつついて、
合図を送っている。

めんどくさい..このあとの展開が手に取るようにわかる...

俺は心の声とは裏腹に営業スマイルは崩さない。

娘の肘打ちに
田沢社長は困り顔でうなずくと、
渋々といった感じで口を開いた。


「おお、それは有り難い...
と、ところで神崎くん...
今、お付き合いしている方はいるのかな...?
いないなら、うちの...」


と、田沢社長の言いかけたところで
「いますよ」
俺は食い気味に即答した。


田沢社長と娘はポカンとした顔を向けている。


「実は彼女とは近いうちに入籍する予定なんです。
結婚式には田沢社長とお嬢さんも是非出席していただきたい」


俺は二人にニコニコとした笑みを向けた。


田沢社長は「それはおめでとう...」と
苦笑いしている。


娘に至っては完全に肩を落としてるが
俺はお構いなしに
「有り難うございます。」
と、笑みを向けている。


今日で何度このやり取りをしてきたことか...

俺は、小さく息を吐いた。
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